皮膚病について

皮膚科診療との出会い

まず、私、谷田行平の経歴の話から始めさせてください。大学卒業後、就職をし、縁あって東京の病院に勤めさせていただきました。その病院の院長がアジア獣医皮膚科専門医の先生と親しい間柄だったことで、専門病院へ週に1~2度実習・勉強に行かせていただくという幸運に恵まれました。

今でこそとても好きな皮膚科診療ですが、当時はと言うと皮膚病の診察も診断も治療も全て苦手意識が強く、教科書を読んでも理解が難しく、困っていました。しかし専門病院に通わせていただく日々の中で皮膚の見方・診方、そして考え方が180度変わり、その奥深さと他の臓器にはない特徴を知り、その世界に魅入られました。そこから貪るように教科書を読み、知識を身に着けていきました。

犬で多い膿皮症もマラセチア皮膚炎もアトピー性皮膚炎も食物アレルギーもそれぞれにそれぞれの特徴を持っていて、見た目で色々な情報をくれるのですが、ベースの知識がないと本当にわからないものです。(ちなみに猫ちゃんの皮膚疾患は基本見た目ではわからないので、犬と比べると本当にムズかしいと心底思います)

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大切なお供たち

[ウィークデーに教科書から知識を得て、週末にそれを基盤として見学する。] そうして皮膚科専門医の診療を目に焼き付ける日々はとても有意義で楽しいものとなりました。あまりに楽しかったせいか、10年以上経った今でも昨日のことのように思い出せます。

治らない皮膚病や再発する皮膚病と上手にお付き合いできていますか?

『皮膚病』には残念ながら完全に治り切らないものが存在します。完全に治らないので上手にお付き合いをしていかなければなりません。なぜ治らないのかという理由として「皮膚病は病気であると同時に、その多くが『体質』と密接に関係しているから」もしくは「病気というよりもむしろ体質寄りのものもあるから」と私は感じ、考えています。

ご相談にいらした飼い主様にはアレルギーを例にしてこういったお話をすると納得される方が多い印象を受けます。アレルギーという病気が数多く存在し、『体質』として広く認知されるほどに人間の身近にあるからでしょう。

犬の皮膚科領域では、アレルギー以外にも「あぶらっぽい体質」や「フケっぽい体質」、「乾燥肌」などいろいろと困った『体質』があるのですが、その存在については動物病院でも家庭でも軽視されていたり見逃されていることが多いのではないかと日々診療しながら感じております。『皮膚病』と『体質』は、明確に線引きできない現象も数多く存在し、お互いがお互いを悪化させたり良くさせたりし得るものです。そしてその両方を適切に対処できず満足のいく結果が得られない患者様とたくさん出会ってきました。

「皮膚病の治療がうまくいくこと」と「体質の管理がうまくいくこと」はお互いに鍵を握りあっていて、いずれか一方だけでは両方がうまくいくことは難しいと考えるべきだと私は思っております。それを踏まえて、この先の記事では病気と体質について私がどういった考え方を持って診察しているかを記しました。記事をご一読いただき、私の考え方や当院の皮膚科診療にご興味を持たれたのであれば、ぜひ一度ご相談いただきたいと思っております。
飼い主様とワンちゃんネコちゃんにとって今までよりも一つでも良い結果が得られるように全力でお手伝いしたいと思っております。

体質から病気へ

困った体質があるために皮膚病になってしまうことはよくあることです。まず実際の例を三つ挙げてみます(現場でよく遭遇する例です。病名など一部専門用語で記載)

  1. あぶらっぽい体質→皮脂の増加→皮脂がすきなマラセチアの増殖→マラセチア皮膚炎
  2. 乾燥肌→皮膚のバリア機能低下→皮膚常在菌の増殖→膿皮症
  3. 乾燥肌→皮膚のバリア機能低下+乾燥肌による痒み→ワンちゃんの引っかき行動→皮膚の傷害・炎症→更なるバリア機能の低下→皮膚常在菌の増殖→膿皮症

このようなストーリーによって「体質をベースに様々な変化を経て結果的に皮膚病になってしまった」例です。では上記のような場合にどう治療し、どう再発を防ぐようにするのか。それぞれのストーリーの逆をたどることが重要と考えています。①~③をひとつずつ考えてみましょう。

  1. マラセチアの除去(薬やシャンプー)+皮脂の除去→(場合によっては、ホルモン疾患などのあぶらっぽい体質となってしまうような原因探し)→あぶらっぽい体質を軽減または改善させるための食事・サプリ・シャンプーの実施
  2. 皮膚や細菌の検査を実施→効果のある抗生物質の選択→膿皮症の治療(薬やシャンプー・塗り薬など)→乾燥肌を軽減するための食事・サプリ・シャンプーの実施
  3. 皮膚や細菌の検査を実施→効果のある抗生物質の選択→膿皮症の治療(薬やシャンプー・塗り薬など)→掻きたいという気持ちの抑制、痒みによるイライラの軽減、かゆみ止めの利用など+乾燥肌を軽減するための食事・サプリ・シャンプーの実施

表面的な皮膚病の治療は初期のステップで行いますが、病気の根源に体質が大きく絡んでくる場合は再発しづらい環境づくりや体質づくりが重要となります。また、2.と3.は原因が同じ「乾燥肌」ではありますが、痒みに対して敏感な子もいれば我慢強い子もいる といった違いに目を向けており、結果的に治療の流れが異なっています(色が異なっている部分にご注目ください)。このようにその子の状況・環境、性格にあった治療オプションを考えて実施することが皮膚病の治療では大切になります。そしてこれは治りづらい皮膚病においてはとても重要なポイントとなってきます。

病気から体質へ?(皮膚の変化)

病気が長期化・慢性化してしまうとそれに対応して皮膚の状態も変化します。見た目が象の皮膚のような見た目で分厚くなってしまう「タイセン化」や傷が綺麗に治らない「瘢痕化」などが例として挙げられます。皮膚が大きく変化してしまった場合、それがずっと治らなくなってしまうこともあります。そうして変化した皮膚はその状態が存在するだけで痒みを引き起こしたり、あぶらっぽくなってしまったり、出血しやすくなったり、菌の温床となりやすくなったりします。病気の長期化や慢性化から様々な有害な環境を作り出してしまう皮膚の体質となってしまうことが有り得るのです。もちろん治りきる場合もありますが、いずれも一筋縄では良くなりませんし一朝一夕で良くなることもありません。根気と時間が必要なものが殆どです。

こういった状況に対し、その理解なしで長期的に治療を頑張れる方はなかなかいらっしゃいません。しかし時間がかかることを理解したうえで、少しずつでも良くなっていっていることを時々病院で確認し、ご自身やご家族を励ましながら頑張れるという方はたくさんいらっしゃいます。治りにくい皮膚の変化は「今の状況」を可能な限りしっかりと把握・理解して一歩ずつ進むことが大切です。